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■人の受精卵のゲノム編集で心臓病遺伝子を修復 アメリカの大学が初成功

 

 生物の遺伝子を自在に改変できる「ゲノム編集」の技術で人の受精卵の遺伝子を操作し、心臓病の原因となる遺伝子の修復に成功したと、アメリカのオレゴン健康科学大学の研究チームが2日付けのイギリスの科学雑誌「ネイチャー」に発表しました。

 ゲノム編集を人の受精卵に応用する報告は、中国以外では初めてです。

 研究チームは、突然の心臓不全と死亡につながることのある心臓の病気「肥大型心筋症」を引き起こす特定の遺伝子に変異がある精子を、正常な卵子に入れて受精させました。この時、遺伝情報を書き換える特殊な物質を精子と同時に入れたところ、58個の受精卵のうち約72%に当たる42個の受精卵で、異常な遺伝子が修復されたということです。

 片方のみに遺伝子変異のあるカップルの自然妊娠の場合、受精卵が変異を受け継がない確率は50%であることから、今回の手法は変異が生じる確率を大幅に軽減できることになります。

 受精後、5日間にわたって観察した結果、ねらった部位以外での改変はなかったということで、研究チームの代表は、「遺伝性の病気がある人の家族や社会の負担を減らすことができる」と話しています。

 中国の事例では、受精卵が細胞分裂を繰り返した後に、遺伝子を修復できた細胞とできていない細胞がモザイク状に混在する問題が高い確率で見付かりましたが、研究チームの関係者は「大幅に改善した」と話したといいます。改変した受精卵を子宮に戻すことはしませんでした。

 オレゴン健康科学大の研究チームは、2013年に世界で初めて人のクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作製したシュークラト・ミタリポフ博士が率いています。

 今回の研究は、ゲノム編集の倫理的な課題などについて、アメリカを代表する科学者でつくるアメリカ科学アカデミーがまとめた勧告に従っているとしていますが、今回の成果は、人の受精卵の改変がどういう条件なら認められるのか、改めて議論を呼びそうです。

 ゲノム編集は5年前に、従来よりもはるかに簡単で正確に遺伝情報を書き換えられる「クリスパー・キャス9」という技術が開発されて以降、幅広い分野で研究が進んでいます。

 この技術を人の受精卵などに応用すると、遺伝性の病気の治療につながると期待される一方、子供が生まれた場合、遺伝子を改変した影響が世代を超えて受け継がれたり、改変で予期しない副作用が起こり得るなど、倫理的な問題があると指摘されています。

 一昨年には中国の大学の研究チームが人の受精卵で遺伝子の改変を行ったと報告し、国際的な議論を呼ぶ中、アメリカ科学アカデミーで中国の研究者なども加わって人の遺伝子にどこまで応用すべきかについて、議論が進められてきました。

 そして、アメリカ科学アカデミーは今年2月、2年近くにわたる科学的な意義や倫理的な問題など幅広い議論の結果をまとめた報告書を発表し、将来的には、ほかに治療の選択肢がなく、その病気にかかわる遺伝子だけを操作することや、数世代にわたる追跡調査や透明性の確保など、厳しい条件のもとで実施を容認し得るとしました。

 今回の研究について、生命倫理に詳しい北海道大学石井哲也教授は、「アメリカでは受精卵の遺伝子を調べ異常がないものだけを選んで子宮に戻す着床前診断が広く行われている上、第三者から健康な精子卵子を提供してもらう体制も整っているので、今回の研究が実際の現場で必要とされる可能性は低く、研究の目的に疑問がある。また、今回の研究は、高い確率で遺伝子を改変できる事実を示しているが、ゲノム編集で目や髪の色といったことも自在に操作できるという倫理的に問題がある利用を助長する恐れもある。ゲノム編集は難病の治療に有効な技術になり得るからこそ使い方は慎重になる必要がある。人の受精卵をゲノム編集する研究について、日本には法の規制がないので、国は早急に対応すべきだ」と話しています。

 

 2017年8月3日(木)