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遊走精巣

 

男児の精巣が陰嚢の底まで降りているものの、外的刺激で動きやすい状態

 遊走精巣とは、男児の精巣が陰嚢(いんのう)の底まで下降しているものの、外的刺激で動きやすい状態。移動性精巣とも呼ばれます。

 遊走精巣は、発生学的な異常ではありません。これに対して、精巣が陰嚢まで下降していない状態を停留精巣といい、こちらは発生学的な異常です。

 性腺(せいせん)に相当する精巣は本来、妊娠3カ月ごろから9カ月ごろまでの胎児期に、腹腔(ふくくう)の腎臓(じんぞう)に近いところから次第に下降し、鼠径管(そけいかん)という下腹部の決まった道を通ってから陰嚢まで下降し、出生時には陰嚢内に位置するようになります。陰嚢からの牽引(けんいん)、ホルモン(内分泌)などの働きにより精巣は下降しますが、何らかの原因によって下降が途中で止まったものが停留精巣です。

 陰嚢内に位置する正常な精巣は、精索というヒモ状の構造の周囲に、絡み付くように存在している精巣挙筋という腹筋の一部が変わった筋肉により、腹腔につながっています。精巣は普段、寝ている時や風呂に入っている時、リラックスして座っている時などには陰嚢に位置しますが、精巣を触る、寒い、運動をする、性的に興奮するなど外的刺激や緊張が加わると、精巣挙筋が収縮して精巣は腹腔側に引き上げられます。

 これは精巣を守ろうとする一種の防御反射といえ、反射が強いと精巣が動きやすくなって鼠径部まで引き上げられるのが、遊走精巣です。

 遊走精巣は、発生学的な異常ではないので、精巣、精巣動静脈、精管、鼠径管は正常に形成されています。だから、精巣が引き上げられても鼠径部にあり、鼠径管内あるいは腹腔内まで引き上げられることはありません。

 従って、必ず精巣を触れることができ、また精巣をつかんで陰嚢の底まで引き下ろせます。引き下ろせない場合は、停留精巣です。

 陰嚢の中に精巣がある場合に比べ、それ以外のところに精巣がある停留精巣の場合は、2〜4度高い温度環境にさらされていることになります。陰嚢内にあると33度、鼠径管内にあると35度、腹腔内にあると37度というデータもあります。

 高い温度環境にある停留精巣を放置しておくと、精巣は徐々に委縮してしまいます。精子を作る細胞も少しずつ機能を失い、数も減少してゆきます。この変化は高い温度環境では常に進行してゆき、成人になってからの男性不妊の原因になると考えられています。

 さらに、停留精巣から悪性腫瘍(しゅよう)ができやすい、停留精巣が外傷を受けやすく、精巣捻転(ねんてん)を起こしやすいなどともいわれます。

 遊走精巣の場合でも、精巣挙筋の収縮が強くて1日のうちほとんど鼠径部に引き上げられていると、精巣の正常な機能の発育が妨げられかねないとされています。しかし、1日のうち何時間引き上げられたままなら病的で、それ以下なら正常範囲なのか、はっきりした基準がないのが現状です。

 1歳の誕生日を過ぎても精巣が陰嚢内に触れないことがある場合には、遊走精巣と停留精巣の区別が難しいことも多いため、小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診察を受け、正しい治療方針を立ててもらうことが勧められます。

遊走精巣の検査と診断と治療

 小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診断では、陰嚢の中に精巣を触れない場合に、鼠径部にあるのかどうかをよく触診します。この触診で精巣を触知する場合には、遊走精巣(移動性精巣)か停留精巣です。陰嚢内に容易に引き下ろすことができ、手を離してもしばらくとどまっている場合には、遊走精巣と確定されます。

 もし鼠径部に精巣を触れない場合には、精巣がない疾患である無精巣症と区別する必要があるため、超音波検査MRI検査、腹腔鏡などにより、腹腔内に精巣があることを確認することがあります。同じ目的で、精巣を刺激するホルモンを注射して、男性ホルモンの分泌能力をみるホルモン検査を行う場合もあります。

 小児科、泌尿器科、小児外科の医師による治療では、普段どの位置に精巣があるのか、24時間のうちどれくらいの時間、精巣が引き上げられているのかを、家族に1カ月ほど観察してもらいます。 就寝時、入浴時、入浴後など安静にしている時に陰嚢に存在しているようであれば、まず問題なく遊走精巣と見なされ、多くは治療の必要はありません。

 24時間のうちほとんどの時間引き上げられている場合や、両側性の遊走精巣で程度が強い場合に、精巣機能の温存の意味から、4~5歳ごろまでに陰嚢内に皮下ポケットを作成し、精巣を収納して固定する手術を行う医師もいます。遊走精巣に対して手術を適用するかどうかは、医療機関によってまちまちで、5パーセントから25パーセントくらいと見なされています。

 手術でなく男性ホルモンを使って精巣の下降を促す方法もありますが、外性器に変化を来す副作用があったり、保険診療として認められていないことから、日本ではあまり行われていません。

 なお、幼児期に遊走精巣で治療が不要と判断されたケースで、その後何年も経ってから精巣が再び引き上げられることがあり、程度の強い遊走精巣では長期間のフォローが必要となります。