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脈なし病

 

大動脈とその主要な分枝に狭窄を生じる特異な血管炎

 脈なし病とは、大動脈とその主要な分枝に狭窄(きょうさく)を生じる特異な血管炎。

 手首の動脈の脈が触れないことがよくあるために脈なし病と呼ばれていますが、疾患の最初の報告者の名前に由来して高安(たかやす)病、あるいは大動脈炎症候群とも呼ばれています。

 この脈なし病は若い女性に多く、特に日本ではかつてから頻度が高かったために、明治の末期から学者の間で注目され、1908年に欧米に報告されたものです。現在でも、日本が世界で最も発症者が多いといわれ、インド、中国などのアジア諸国でもみられるほかに、メキシコ、南アフリカなどでも少なくないようです。

 日本での発症者の約9割は女性で、発症年齢は20歳代が最も多く、次いで30歳代、40歳代の順。特定疾患であり、医療費は公費負担助成の対象となります。

 原因は不明ながら、自己免疫機序が関与しているという説が有力です。炎症のために、動脈にひきつれができて壁が厚くなり、内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりするために起こります。

 炎症が起きる場所については、主に脳や腕に血液を送る動脈に起きると、かつては考えられていました。動脈造影法といった検査技術の進歩した近年では、炎症は大動脈全体と、そこから枝分かれしている腹部の内臓や腎(じん)臓の動脈、さらには肺動脈にも及ぶことがわかっています。時には、動脈が拡張して動脈瘤(りゅう)を作ることもあります。

 最初の急性期は、発熱、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重減少などの症状から始まることもあります。発症が潜在性で気付かないことも多く、健康診断で「脈なし」を指摘されて、初めて診断されることがしばしばあります。その後、慢性の経過をたどるようになると、動脈の炎症がどの血管に起こったかによって、さまざまな症状が現れてきます。

 脳へいく血管である頸(けい)動脈が狭くなったケースでは、視力が低下したり、めまい、立ちくらみ、頭痛などが起こります。また、頸動脈を圧迫したり、上を向く姿勢をとったりすると、めまいや気が遠くなるような感じの発作が生じます。まれに、脳梗塞(こうそく)や失明などが起こることもあります。鎖骨下動脈が狭くなったケースでは、上肢のしびれ感、脱力感、冷感、重い物を持つと疲れやすいなどの症状が起こります。

 腹部の大動脈が狭くなったケースでは、上下半身で血圧の著しい差がみられ、上半身は血圧が高いのに下半身では血圧が低くなります。この状態では、足の動脈に脈が触れなくなって、少し歩くとふくらはぎが張って重くなったり、痛んだりする間欠性跛行(はこう)の症状が出ることもあります。腎臓へいく動脈が詰まったケースでは、血圧を高くする物質が血液中に増えるために、高血圧になります。

脈なし病の検査と診断と治療

 内科、ないし循環器科の医師による診断では、腕の動脈に狭窄があると、血圧に左右差が認められます。狭窄による血管雑音は、頸部、鎖骨上窩(じょうか)などで聞かれます。血液検査では、赤沈(血沈)高進、CRP(C反応性蛋白〔たんぱく〕)陽性、高ガンマグロブリン血症など通常の炎症反応がみられます。

 X線検査では、大動脈の拡大や石灰化が認められます。血管造影検査では、動脈の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤などの病変部位や程度がわかり、脈なし病の診断に最も有用です。心エコーや心臓カテーテル検査では、心臓合併症の有無を調べます。

 急性期には、炎症を鎮めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。CRP、赤沈を指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して、投与量を加減しながら、継続的あるいは間欠的に投与します。慢性期には、血栓予防のため抗血小板薬や抗凝固薬を用います。

 内科的治療が困難と考えられる場合で、特定の血管病変に起因することが明らかな症状がある場合には、外科的治療が考慮されます。頸動脈狭窄による脳虚血症状、腎動脈や大動脈の狭窄による高血圧、大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤などが、主な手術対象になります。

 脈なし病はある程度までは進行しますが、その後は極めて慢性の経過をとるのが通常で、多くは長期の生存が可能です。しかし、脳への血流障害や心臓の合併症を生じた場合や、高血圧が合併する場合は、厳重な管理が必要になります。また、血管炎が再発することもあります。