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ビタミン欠乏によるニューロパチー

 

ビタミンの欠乏から、神経細胞が損傷して生じる神経障害

 ビタミン欠乏によるニューロパチーとは、ビタミンの摂取不足、あるいは体内での消費過剰によってビタミンが欠乏し、神経細胞が損傷することによって生じる末梢(まっしょう)神経障害。

 ニューロパチーとは、脳や脊髄(せきずい)から分かれた後の、体中に分布する末梢神経に障害が起こった状態。末梢神経障害とも呼ばれ、以前は神経炎と呼ばれていました。

 末梢神経には、筋肉を動かす運動神経のほか、感覚神経(知覚神経)、自律神経の3種類があります。ニューロパチーによって末梢神経に起こる症状は、多彩で、複雑です。

 その欠乏によってニューロパチーを起こす主なビタミンとしては、ビタミンB1、ニコチン酸、ビタミンB12が挙げられます。

 ビタミンB1が欠乏すると、ビタミンB1欠乏性ニューロパチー、いわゆる脚気(かっけ)が起こり、深部腱(けん)反射の消失に代表される多発神経炎が生じます。

 ニコチン酸が欠乏すると、ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)が起こり、皮膚炎や下痢とともに神経炎から精神錯乱が現れてきます。

 ビタミンB12が欠乏すると、ビタミンB12欠乏性ニューロパチーが起こり、貧血とともに各種神経炎、神経痛が現れます。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)

 ビタミンB1は、細胞がエネルギーとして利用する糖質の代謝に重要なビタミンです。

 偏食、過度のダイエット、激しい運動、重労働、過剰なアルコール摂取、妊娠、授乳、甲状腺(せん)機能高進症などでビタミンB1の消費が一時的に増大した際に、糖質の代謝異常が起こり、血液や筋肉に、糖質の不完全燃焼の産物であるピルビン酸や乳酸が蓄積されます。そうなると、細胞が十分なエネルギーを得られず、神経機能の調節や消化機能が衰えて、神経障害が起こります。

 ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状としては、初めは体がだるい、手足がしびれる、動悸(どうき)がする、息切れがする、手足にしびれ感がある、下肢がむくむなどが主なものです。進行すると、足を動かす力がなくなったり、膝(ひざ)の下をたたくと足が跳ね上がる膝蓋腱(しつがいけん)反射が出なくなり、視力も衰えてきます。

 かつては、脚気衝心(しょうしん)といって、突然胸が苦しくなり、心臓まひで死亡することもありましたが、現在ではこのような重症例はほとんどありません。

 しかし、三食とも即席ラーメンを食べるといったような極端に偏った食生活によるビタミンB1欠乏性ニューロパチーなどが、最近は若い人に増えてきています。インスタント食品やスナック菓子には脂質とともに糖質も多く含まれているのですが、この糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が足りていないのです。

 また、過度なダイエットや欠食、外食によって、女子大学生の血中総ビタミンB1の値が非常に低いことも報告されています。

 さらに、糖尿病の発症者と、高齢の入院患者にも、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーが増えてきているとされます。糖尿病の場合は、血液中の糖質に対するビタミンB1の相対的な不足が原因となり、高齢の入院患者の場合は、高カロリー(糖質)の輸液に対してやはりビタミンB1の不足が原因となります。

 食事の代わりに酒を飲むといったアルコール依存症の人も、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーになる確率が高いと見なされています。ビタミンB1の欠乏以外に、アルコールそのものによる神経の障害から手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いのも特徴で、燃える足症状ともいいます。

ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)

 ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏すると、皮膚炎、神経炎、下痢、精神錯乱などを起こします。ナイアシン欠乏症とも呼ばれ、とうもろこしを主食とする中南米などの地域ではペラグラとも呼ばれています。

 ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、蛋白(たんぱく)質に含まれる必須アミノ酸トリプトファンから体内で合成されます。糖質、脂質、蛋白(たんぱく)質の代謝に不可欠な栄養素であり、また、アルコールや、二日酔いのもとになるアセトアルデヒドを分解します。人為的にニコチン酸を摂取することで、血行をよくし、冷え性や頭痛を改善しますし、大量に摂取すれば血清のコレステロール中性脂肪を下げる薬理効果もあります。

 ニコチン酸欠乏症はとうもろこしを主食とする人に多い疾患ですが、日本では、不規則な食事をするアルコール多飲者にみられます。酒を飲むほどニコチン酸が消費されますので、つまみを食べずに大量に飲む人は、栄養不良に注意が必要です。特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が不足すると、ニコチン酸の合成能力が低下します。

 遺伝病であるハートナップ病の人も、トリプトファンが腸から吸収されないために、ニコチン酸欠乏症を発症します。

 症状としては、日光に当たることによって手や足、首、顔などに皮膚炎が起こります。同時に、舌炎、口内炎、神経炎、腸炎などを起こし、そのために食欲不振や下痢なども起こします。その後、頭痛、めまい、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全による錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こり、最悪の場合は死に至ります。

 日本では普通の食事をしている限り、重症にはなりません。食欲減退、口角炎、不安感などの軽いニコチン酸欠乏症が見られる程度です。

ビタミンB12欠乏性ニューロパチー

 ビタミンB12とは、鉄分を補っても治らない貧血の治療法を研究した結果、発見された水溶性ビタミン。物質名はシアノコバラミンです。

 ビタミンB12は、胃で消化された後で腸で吸収される他のビタミンとは違って、胃で溶かされたり腸内の細菌によって食べられるのを防ぐために特殊な蛋白(たんぱく)質と結び付くという過程を通って、腸に吸収されます。そのために、最後に発見されたビタミンに相当し、12という二桁(けた)の番号が付いています。

 蛋白質や核酸の体内合成に欠かせないビタミンであり、細胞のエネルギー獲得を助ける作用、神経細胞を正常に保つ作用があります。

 その核酸とは、DNA=遺伝子の主な成分になっている物質で、細胞を再生する時に重要な働きをしています。ビタミンB12には、神経細胞の中にある核酸の体内合成を助ける働きがあります。

 つまり、正常な神経細胞を維持して、脳からの指令を手足などの末梢神経まで正確に伝えるには、ビタミンB12はなくてはならない栄養素なのです。神経系が原因の腰痛の治療、不眠症や時差ボケの解消には、ビタミンB12の大量摂取が有効とされています。

 また、ビタミンB12には、正常な赤血球を作り出す働きがあり、貧血になるのを予防しています。赤血球は鉄分を材料にして体内で作られますが、たとえ十分な鉄分を食品から取っても、ビタミンB12や葉酸が不足していると正常な赤血球に成長しません。造血に関係するため赤いビタミンとも呼ばれ、肝機能強化にも有効です。

 ビタミンB12が欠乏すると貧血になるほか、息切れ、めまい、動悸(どうき)、神経系に作用して各種神経炎、神経痛、筋肉痛、精神障害、記憶力の減退、睡眠障害、食欲不振などが引き起こされます。

 欠乏症は、厳格な菜食主義者(ベジタリアン)や、手術で胃の切除をした人、高齢で胃腸の粘膜が収縮している人などに多くみられます。

ビタミン欠乏によるニューロパチーの検査と診断と治療

 神経内科、ないし内科の医師によるビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)の検査では、ハンマーなどで膝の下を軽くたたく、膝蓋腱反射を利用した方法が広く知られています。足がピクンと動けば正常な反応で、何も反応がなければビタミンB1欠乏性ニューロパチーの可能性がありますが、診断を確定する検査ではありません。

 ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの治療では、ビタミンB1サプリメントを投与します。ただし、神経障害の回復には時間がかかるとされています。また、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状は回復したようにみえても、数年後に再発することがあるので注意が必要です。

 ビタミンB1はいろいろな食べ物の中に含まれているので、偏食さえしなければ、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーを起こすことはほとんどありません。過度のダイエット、朝食や昼食を抜く、外食で食事をすませる、インスタント食品に偏るなどの食生活では、ビタミンB1の不足を招き、発症しやすくなります。

 ただし、ビタミンB1が不足していても、他の栄養素のバランスがいい場合は、すぐに発症しません。食生活に偏りがあって、疲労感や倦怠(けんたい)感が続いている場合は、潜在的ビタミンB1欠乏症と考えて、食生活を改善する必要があります。

 お勧めなのは玄米食。玄米にはビタミンB1が多く含まれているからで、玄米を精米した白米ではほぼ全部のビタミン類が取り除かれています。玄米のほかにビタミンB1を多く含む食品には、豚肉、うなぎ、枝豆、えんどう豆、大豆(だいず)、ごま、ピーナッツなどがあります。これらをうまく組み合わせて、ビタミンB1を摂取していきましょう。

 ビタミンB1を添加している強化米や強化精麦を利用するのも、1つの方法です。

 ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)の治療は、ニコチン酸を含むビタミンB群の投与です。ニコチン酸アミドを1日50〜100mg投与し、他のビタミンBの欠乏を合併することも多いので、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6も併用して投与します。

 ビタミンB群は、お互いに協力しあって活動しているため、それぞれの成分だけではなく、ビタミンB群としてまとめて投与することが望ましい栄養素でもあります。

 ニコチン酸の過剰症は特にありませんが、合成品のニコチン酸を100mg以上摂取すると、皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなることがあります。とりわけ、ニコチン酸の摂取に際して注意が必要なのは、糖尿病の人です。

 ニコチン酸インシュリンの合成に関与し、大量に摂取すると糖質の処理を妨げてしまいます。一部の医薬品との相互作用を示唆するデータもあるため、すでに他の薬を服用中の場合は主治医に相談の上、ニコチン酸を摂取する必要があります。

 ビタミンB12欠乏性ニューロパチーの治療は、菜食主義者に対してはサプリメントによって、胃の切除をした人などに対しては静脈注射や投薬によって、ビタミンB12を補給します。

 よほど偏食しない限り、日常の食生活で不足することはありませんが、ビタミンB12の含有量が多いのは、魚肉を始め、カキ、アサリ、ホタテガイなどの貝類、牛や豚のレバー、牛肉、卵、牛乳などの動物性食品で、植物性食品にはほとんど含まれていません。ただし、しょうゆ、みそ、納豆などには、微生物によって作られるビタミンB12が含まれています。