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前庭神経鞘腫

 

脳の腫瘍による障害が聴神経に及び、聴力が低下する疾患

 前庭神経鞘腫(ぜんていしんけいしょうしゅ)とは、脳の聴神経の回りを鞘(さや)のように覆っているシュワン細胞から発生する非がん性の腫瘍。聴神経腫瘍(しゅよう)、聴神経鞘腫、第8脳神経腫とも呼ばれます。

 聴神経には、聴覚に関係する蝸牛(かぎゅう)神経と、平衡感覚に関する前庭神経があります。腫瘍は通常、前庭神経から生じますが、前庭神経と一緒に脳から出る蝸牛神経に障害が及んで聴力の低下が生じることが多いので、前庭神経鞘腫という疾患名が付けられています。

 良性の腫瘍であり、非常にゆっくりとしたスピードで大きくなります。腫瘍が成長するのに時間がかかるので、これによる症状が出現するまでには何年もかけて大きくなってきていることが多いと思われます。まれに、短期間で腫瘍が大きくなることもあります。

 前庭神経鞘腫の初期症状として最も多いのは、聴力の低下。腫瘍は聴神経の回りを覆っているシュワン細胞から発生するので、まず一番に聴神経を圧迫して、腫瘍のある側の耳の聞こえが悪くなるという症状が出現します。聴力の低下は徐々に出現するため、初めのうちは本人もあまり意識しないこともあるものの、悪いほうの耳では電話の声が聞こえにくいなどの兆候があったりします。

 突然耳が聞こえなくなる突発型難聴を起こすものも、少なくありません。耳の聞こえがよくなったり悪くなったり、聴力の程度が変動することもあります。その他の初期症状として、片側の耳のみの耳鳴り、めまい、急に向きを変えるとバランスを失ったり、ふらつくなどがみられます。

 腫瘍が大きくなって、顔面神経や三叉(さんさ)神経といった脳の他の部分の神経を圧迫すると、顔面のしびれ、顔の筋肉の脱力やまひ、嚥下(えんか)障害などが生じます。

 前庭神経鞘腫の原因は明らかではないものの、遺伝したりするものではありません。神経線維腫症といって特殊例として両側に腫瘍が生じるものでは、遺伝性の原因が明らかにされています。

 多くのケースでは、片側の耳の聞こえの悪さを覚えて耳鼻科を受診し、頭のCTスキャンなどの検査をして、腫瘍が見付かるという経過をとります。

前庭神経鞘腫の検査と診断と治療

 片側の耳の聞こえが徐々に悪くなってきたり、めまいの発作を繰り返すなどの症状がある場合は、前庭神経鞘腫の可能性を疑って、まず耳鼻咽喉(いんこう)科の専門医を受診します。

 聴力検査、音刺激に反応する脳波を調べる聴性脳幹反応、平衡機能(めまい)検査により前庭神経鞘腫が疑われる場合は、頭部MRIによる画像検査が行われます。特に、造影剤を静脈に注射しながら行う造営MRI検査では、小さい腫瘍も見付けることができます。そのほかにも、頭部の単純レント ゲンや、CTスキャンの検査が行われ、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。

 治療は大きく、手術療法と放射線療法に分かれます。手術療法には、腫瘍が発生した部位や大きさ、残存聴力などに応じていくつかの手術方法があり、耳鼻咽喉科または脳外科が担当します。顕微鏡を用いた手術であるマイクロサージャリーが、行われることもあります。

 マイクロサージャリーは、耳の後ろの部分の皮膚に小さな切開を加え、顕微鏡で拡大しながら周辺の脳神経を損傷しないように注意を払って、腫瘍を摘出します。通常10日から2週間程度の入院期間が必要です。

 放射線療法には、ガンマナイフまたはリニアックによる治療法があり、腫瘍を消失させるのではなく、腫瘍が大きくなるのを抑えることを目的としています。それぞれの治療法は、聴力の悪化、顔面神経まひなど合併症に関して長所と短所があり、専門医の説明をよく聞いて選択します。

 前庭神経鞘腫は比較的ゆっくり成長する良性腫瘍であるため、高齢者で腫瘍が小さい場合には治療を行わずに経過をみることもあります。