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肝レンズ核変性症

 

脳、肝臓、腎臓、目に銅が沈着してくる遺伝性疾患

 肝レンズ核変性症とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。進行性レンズ核変性症、ウイルソン病、先天性銅代謝異常症とも呼ばれます。

 常染色体劣性遺伝に基づく遺伝性代謝疾患であり、その発症の原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

 銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、先天性銅代謝異常症はよく似ています。

 食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱく)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

 しかし、肝レンズ核変性症においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、大脳の深部にある大脳基底核、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

 近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、肝レンズ核変性症の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

 肝レンズ核変性症の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

 肝臓の症状は、疲れやすかったり、白目や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

 脳の症状の多くは、大脳基底核を構成するレンズ核の変性に伴い、思春期ごろから現れます。レンズ核は、神経細胞体の集まりである2つの神経核、すなわち被殻淡蒼球(たんそうきゅう)という2つの神経核からなり、筋肉の動きを制御して、運動を調節している部位です。

 初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

 さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態統合失調症精神分裂病)様の反応を示すようになります。

 目の症状としては、黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見える角膜輪(カイザー・フライシャー輪)が現れます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

 これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、10歳以下の小児期に多い肝型、10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

レンズ核変性症の検査と診断と治療

 肝レンズ核変性症は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患である肝レンズ核変性症は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

 早期発見ためには、同じ疾患を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率で肝レンズ核変性症であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異で肝レンズ核変性症が発症するため、家族や血族発生のないこともあります。

 家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

 小児科、あるいは内科の医師による肝レンズ核変性症の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、目の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

 さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

 小児科、内科の医師による治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、Dーペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

 食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるのは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

 薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

 また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。